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福井地方裁判所 昭和34年(ヨ)24号 決定

申請人 福井交通(新)労働組合

被申請人 福井交通株式会社

被申請人 福井交通(旧)労働組合

主文

被申請会社は、被申請組合との労働協約の唯一団体交渉約款を理由に別紙記載の一ないし八の事項について

申請人との平和的且つ秩序ある団体交渉を拒否してはならない。

被申請組合は前項の団体交渉を妨害する一切の行為を為してはならない。

(注、無保証)

(裁判官 神谷敏夫 松田数馬 川村フク子)

(別紙)

団体交渉事項

一、事故費の個人負担を廃止して会社負担とすること。

二、配車は組合と協議の上これを定めること。

三、未収金は会社の完全負担とすること。

四、出勤停止の措置は組合と協議の上決定すること。

五、出勤停止中の賃金を保障すること。

六、給与体制を確立すること。

七、退職金制度を制定すること。

八、被解雇者に対する解雇の撤回並にこれに伴う給与等の措置に関する事項。

【参考資料】

仮処分命令申請書

申請の趣旨

被申請人会社は、被申請人組合との労働協約の唯一団体交渉約款規定を理由に申請人組合との団体交渉を拒否してはならない。

被申請人組合は、申請人組合と被申請人会社との団体交渉を妨害してはならない。

との裁判を求める。

申請の理由

一、被申請人会社(以下会社という)は乗用車八四台、貸切バス四台を有し、従業員約百七十名を使用してタクシー業を営むものであり、被申請人組合(以下旧組合という)は、会社従業員中約百十五名を以て、昭和三十三年九月二十六日結成され、同日福井県全労働組合会議に加盟したもので、現在その組合員数は約六十余名である。

申請人組合(以下新組合という)は、昭和三十四年一月二十八日右旧組合よりわかれて、五十二名の組合員で結成され、同日福井県労働組合評議会に加盟し、現在四十五名の組合員(旧組合に所属せぬものの加入者も含む)を擁しているものである。

二、新組合は、一月二十八日結成以来再三にわたつて会社に口頭又は書面で団体交渉を申入れたが、会社はその都度、旧組合と会社との暫定労働協約(昭和三十三年十月十三日締結)第二条「会社は福井県全労働組合会議に所属する本組合を従業員のための唯一の団体交渉の相手方として認める」との規定をたてにとり、右申入を拒否し、また旧組合は右協約の文言を以て会社に絶対に団体交渉に応ずるなと圧力を加え、また新組合の申入を妨害する等新組合と会社との団体交渉を妨害している。

三、しかしながら右労働協約の条項は新組合との団体交渉を拒否する正当な理由とならず従つて会社の団体交渉拒否は明らかに労組法第七条第二号に違反する不当労働行為であり又旧組合の妨害は甚だしい新組合の団結権の侵害である。

(一) すなわち各労働組合はそれぞれ個有の憲法上労働法上の権利として使用者と団体交渉を有するものであつて一の組合との間でその組合のみを団体交渉の相手方と認めるまた他組合との交渉には応じない旨協約を締結しても他組合の右の憲法上労組法上の権利を否定しうるものでなくその間においては全く無効の協約といわなければならない。

この事はそれぞれの組合の組合員数の大小とか組合結成の時期の前後とを問はずまた非組合員(未組織者)による新組合の結成の場合と脱退分裂による新組合員の結成の場合たることを問はず適用されるのである。

(二) まして本件の場合においては旧組合の労働条件改善のための活動を不満とする組合員約七十八名(当時組合員の三分の二以上)が昭和三十四年一月十六日執行部を改選し全労会議を脱退して県労評に加盟しようとして決議したことに端を発し遂に一月二十八日約五十数名の組合員で新組合を結成し県労評に加盟するに至つたもので一旦は全員の全労会議脱退を決議したのであつて前記労働協約に抱束されるべき筋合にはないのである。しかし会社は新組合の切崩しをはかるため新組合よりの団交の申入は一切これを拒否し又旧組合は新組合との団体交渉を妨害する目的で種々の圧力をかけているのである(本項については昭和三四年(ヨ)第一八号仮処分事件の申請書記載事実及同疎明方法を参照のこと)

(三) しかして会社の団体交渉拒否は労組法第七条第二号に違反する不当労働行為であり旧組合の妨害は右団交権の侵害でありかかる不当なる侵害行為は即時排除されねばならないものである。

四、以上の次第で会社の団交拒否旧組合の団交妨害は新組合の団結権を著しく侵害するものであるので新組合は近く会社並に旧組合に対して団体交渉権存在確認並に団結権妨害排除の訴訟を提出すべく準備中であるが、しかし会社は新組合結成以来単にその団交権否認のみならず新組合員の就労禁止組合幹部の解雇の強行等を行つているもので新組合の組織の壊滅を意図しその団結権を全面的に侵害しており旧組合は又新組合の団交妨害のみならず団結自体の侵害を重ねておりかくして新組合の団結は危胎にひんしている。

従つて前記本案訴訟の確定をまつては組合自体の存続すら脅かされんとする回復しがたい損害を蒙るおそれがあるので本申請に及んだものである。

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